東京電機大学 住宅供給公社 コラボレーション

ー 設計者インタビュー ー
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『趣味人たちの空間』

藤沢裕太

東京電機大学 建築学専攻大学院
趣味は、日常や色々な場所を写真に収めたり、自転車やキャンプなどアウトドアなこともよくします。建築の道に進んだきっかけは、小さい頃から一貫してものづくりが好きだったことが大きく、今に至ります。

-これまでの団地のイメージはどのようなものでしたか︖

幼い頃、私も団地に住んでいて、建物の中央にある大きな公園で朝から晩まで友達と遊んでいた記憶があります。遊具なども充実していて、遊んでいる子供とは、気づいた時には友達になっているような思い出もあります。
当時の思い出からも団地は敷地などが広いイメージがあります。一般的なマンションでは難しい、大きな広場や多くの自然など、住環境が良いイメージです。

-興野町住宅を初めて見時の印象は︖

現場見学の集合場所が団地の中央にある広場だったので、比較的緑が多くて居心地が良い印象でした。住民の方が棟毎に植栽を植えており、個性がある団地だなと感じました。
住戸を見た時は、竣工から70年近くたっていることから、畳、ふすまや押し入れなどがあって、現代の住宅のつくりと違うなと感じました。
特に印象的だったことは、当時は、入居する方が浴槽を購入して浴室に設置していたことです。今とは違う、当時のライフスタイルが垣間見えたことが印象的でした。

◎向かい合う二部屋をリノベーション

-他の二人と違う二部屋を使ったリノベーションですが、今回のプランの狙いやこだわりはどのような点ですか︖

今回の大きな狙いは、「憧れを取り戻す」ことコンセプトに掲げました。 多くの団地で高齢化が進んでいる現状がありますが、特定の世代が特定の時代に多く入居し、住環境が良いがために住み続けて、世代に偏りが生じているとも聞いたことがありました。
高齢化が進んでいる団地であっても、団地が持っているポテンシャルは高いと思ったので、若い世代への訴求力不足や住戸のミスマッチがあると考えました。
そのため、より魅力的な住戸の提案をするために、集まって住まうという強みを生かすこと、住戸から広がるコミュニティをテーマにして提案しています。

◎昔の『あこがれの場所』を今の『あこがれの場所』に

-まず、「憧れを取り戻す」とは、どういうことですか?

かつての団地の黄金期と言われる、高度成長期の団地は、当時の最新鋭の住宅で情報の発信原、人々の憧れでもあったと聞いています。
現代では、人々の生活が豊かになり、また価値観が多様化してしまったことで、昭和の『三種の神器(白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫)』や『3C(カラーテレビ・クーラー・自動車)』といった様な生活者の象徴的な憧れが希薄になっていると考えました。
しかし、令和であっても、生活者の中には潜在的な憧れは存在していると思います。
特に近年では、SNS や動画配信サイトの普及によって、Vlog(Video Blog※1)やルームツアー※2などのライフスタイルや趣味などを他人とシェアする動きも増えていて、画面の向こう側にある無数の『憧れ』が、若い世代の憧れの対象となるのではと考えました。

※1 Video Blog︓一般的なブログの動画版
※2 ルームツアー︓自宅のお気に入りの場所や空間をSNS や動画サイトで紹介すること

-今回のプランでは、どの様に団地を若い世代の憧れの場所にするんですか︖

様々な価値観や趣味を持つ人が集まって団地に住むことで、団地が再び『憧れの場所』になるのではないかと考えました。
そのため、今回の設計では、趣味や色々な価値観を持っている人を“趣味人” と呼び、“趣味人” に合う住戸を設計しようと考えました。
個人的なイメージですが、“趣味人” は古いもの良いものととらえる文化にもなじみがあると考え、一般的な賃貸とは違う、リノベーション物件への理解も高いと考えました。

-設計段階でのポイントなどを教えてください。

設計のキーワードは、『分散』『つなげる』『仕切る』『趣味人の空間』です。

-『分散』とはどういうことですか︖

今回の条件では、構造的に二部屋を一部屋にできない制約があり、生活の中で住戸間を移動する際に、一度外に出ないといけないのが一番の障壁だったので、当初は生活導線を1 つの住戸に集約する案を想定していました。
しかし、片側に生活導線を集約すると、片側だけで生活が成り立ってしまい、二部屋を使う利点が失われてしまうと考えました。
そのため、住戸の空間体験を最大化するため、生活導線を分散させ、二部屋の空間を最大限に使うプランにしました。

-『つなげる』とはどういうことですか?)

生活導線を『分散』したため、各居室を生活の中でシームレスにつなげることが課題になると考えました。
特に玄関を介しての住戸間の移動導線は住む人にとっては大きなハードルとなるので、玄関と居室の間に土間を設けて、玄関・土間・居室間に段差をつけることで、内と外を緩やかにつなげることを意識しました。また、土間を設けることで、居室内と外の中間領域と捉え、外に出る意識のハードルを下げています。

-『仕切る』とはどういうことですか?

居室の使い方に制限を設けないため、壁を設けずに緩く仕切ることにし、空間に応じて仕切り方を変えました。
具体的には、寝室は独立した部屋にしたいので、ダイニングとリビングの仕切りには、壁面収納で仕切れるようにしました。
また、共有スペースと土間は緩やかに仕切りながらも、一体感を持たせるため、垂れ壁の様な吊戸棚で仕切ることとしました。

-『趣味人の空間』とは何ですか?

趣味人は様々なアクティビティを行っていることから、状況に応じた空間が求められます。また、アクティビティを支えている“もの” を収納する空間も必要になります。
このため、住戸には、趣味人にとって必要な『作る』・『仕舞う』・『見せる』という3つのポイントを設定し、設計しました。
『作る』は、アクティビティに応じて様々な使い方や汚れにも対応できる土間空間、『仕舞う』は、収納としての壁面収納、『見せる』は、収納を兼ねながらも、“もの”をディスプレイできる吊戸棚です。

-設計や工事で苦労した点ありますか?

実務レベルの設計をしたことです。使用する機材や材料、寸法や予算に合うものを探すのが大変でした。パース※の中では簡単にできるものであっても、組み立てから仕上げの細部、ねじ一本まで考えなければいけないことが、大きなギャップでした。規模で言えば、住戸内のみなので、小さいですが、小さな部屋であっても一から作ることの大変さを学ぶことができました。また、大学の先生やJKK 東京の担当者の方、チームメンバーのサポートがあったからできたと感じています。

※パース:室内を立体的な絵にしたもの

-最後に、今回の取組みで一番印象的なことは何ですか?

多くの経験が初めてで、毎回新しい発見があってとても貴重な経験でした。
その中でも現場見学をした時に、自分のプランが実現していく様子を見た時が一番感動しました。
模型などを作ることはあっても、実際の住戸の空間そのものをやることが大学の授業では体験できない経験だったためインパクトも大きかったです。
また、今回、コロナウイルスの影響で生活様式が大きく変わったと感じました。設計時は現在のコロナ禍はもちろん想定していませんでしたが、結果的に家で過ごす時間が増えている中で、今回のプランは今の時代に合っているなと感じています。時代の変化で今回の2部屋の間取りの弱点がリモートワークや家時間の充実など強みになるのではと期待しています。

ー コンセプト ー
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『湾曲壁の隠れ家』

コンセプト

『伸びちぢみする家』

コンセプト

『趣味人たちの空間』

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ー 設計者インタビュー ー
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ー 完成物件紹介 ー
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『湾曲壁の隠れ家』

完成物件

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