『伸びちぢみする家』
東京電機大学 建築学専攻大学院
幼少期を英国で過ごし、住空間を大切にする文化に触れてきた事で、建築に興味を持ちました。
小さい頃から手を動かすことが好きで、建築設計の他にソーイングや料理が好きです。使い手が愛着を持てる建築を作って行きたいです。
団地は古い建物のイメージもありましたが、都心の中でもゆったりした空間で緑があり、近隣とのつながりもあることから、温かいイメージを持っていました。
これまで団地の住戸内に入った経験があまりなかったため、初めて中を見た時は、壁や間仕切りが多く、少し狭い印象を受けました。
また、室内に冷蔵庫や洗濯機などの生活家電を置く専用スペースがないなど、団地の間取りが今の生活スタイルに合っていない印象も受けました。
ただ、部屋に入った時に採光や通風の気持ち良さを感じることができました。
一般的なマンションだと向きによっては、日が当たらない部屋もありますが、こちらの団地では、どの部屋も日当たりが良く、明るく爽やかに感じました。
毎年、団地内でお祭りもあって、棟毎の交流もあると住民の方からお聞きし、当初のイメージよりも更に地域のつながりが強いと感じました。
また、団地見学の際には、住民の方から気さくに声を掛けていただきました。特に現在のコロナ禍を経験する中で、近隣の方とのコミュニケーションのある環境はとても良いと感じました。
既存の間取りに合わせて「収納空間」と「生活空間」を交互に配置しました。
木のフレームでできた中央の収納空間の大きさを自由に調整することで、生活空間を伸び縮みできると考えました。
収納室をカーテンでブロックすることでプライベートスペースを見せずにキッチンでゲストと過ごすこともできますし、普段は収納スペースを解放することでワンルームとして利用することもできます。部屋の大きさを調整することで、一人の空間や友人を招く空間に変化させることができるのではないかと考えました。
また、プライベートスペースは間仕切りがないため、後から賃貸でも可能なDIYで好みの間取りに変更することもできます。
既存の住戸内は、建具が多い印象で、住み方が固定される印象を持ちました。そのため、提案の中では、自由な可変性を持たせたいと思いました。
また、一般的な少人数向け住宅との差別化を目指し、フレキシブル性を追求しようと考えました。
◎水回りを豊かに、人を招きやすい住戸
フレキシブル性は、玄関スペースとキッチンスペースに持たせました。
一般的な賃貸住宅は玄関から入ると水回り空間が手前に余白なくあり、プライベートな空間まで人を招き入れる必要があります。そこで玄関近くの水回り空間をより豊かに設計することで、友人を呼びやすい住戸を目指しました。具体的には、玄関スペースとキッチンスペースに客間としての役割をもたせるため、玄関スペースを無くし、キッチンスペースの使い方を工夫しました。キッチンをダイニングテーブルとしても利用できるように工夫することで、フレキシブルに活用することができます。
住戸内に設置する間仕切り収納フレームとキッチンが一番のこだわりです。どちらも造作家具で、全体を住戸内でいかに綺麗に見せるかに細部までこだわりました。このため、棚の接続金具なども見えないようにして、見栄えと使いやすさを追求しました。
大学の授業では設計を学んできましたが、実際の設計は初めてで、分からないことが多く大変でした。サンプル検討や住宅設備のショールームを見学をしたり、大学の先生やJKK 東京の担当者の方の協力を得ながら、進めることができました。
苦労もありましたが、これまで建築物を見学する際にあまり気にしていなかった、素材や収まりなどの細かい点に自然と目が行くようになり、建築の見方も変わりました。
実は、作業を進めて行く中で、自分でも住んで見たいと思いました。
今回の提案では、どんな人でも使えるように設計をしましたが、自由な発想でフレキシブルに部屋を使いこなしてくださる方に住んで欲しいです。友人を頻繁に招く学生の方にも向いているかもしれません。団地内に若い方が増えると更に活気が出そうですね。
一回一回の先生やJKK東京の担当者の方との会議が印象的でした。
社会に出る前に、この様な授業では学べない実務的な経験をすることができてよかったです。
企業と大学との共同プロジェクトで、最後までやり遂げることができるか不安でしたが、先生や研究室の同期メンバー、JKK東京の担当者の方がサポートしてくださり、粘り強く頑張ることができました。「伸び縮みする家」を形にしていただき本当にありがとうございます。